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[這いずり日記] フランス各地 2010/夏

夏は毎年長めに出かける。今年は南米にでも行こうかと準備をしていたが、理事がフランスに行きたいと駄々をこねるのでやむなくフランス行きとなった。毎年、ヤマビルに噛まれたり、雷に来襲されたり、ハードな旅につき合わせているから、駄々といえども重い。尊重せざるを得ないのである。
フランスねえ、ではどこに行きたいのかと理事に尋ねると、まるでアイデアがないらしく、山の小さな村がいいな、ジュラとか。などとまるで適当なことをいう。こちらも今一つ気乗りがしていないから、適当に予定を作って、ジュラからエクラン、エクランからケラ、ケラからカマルグ。最後にパリ。というような大体の行程で出発した。パリを除けば、丘陵地帯、山岳地帯、湿地帯、それぞれで三分の一というような、焦点の定まらない計画だ。

個人的にはフランスとはかつて協議離婚をしたような間柄だから時々行くことがあるが、三週間となるとピレネーに出かけて以来八年ぶりになる。道路にしても、宿にしても、食事にしても、いずれにしても相変わらず上等で効率的だが、こちらの都合で新鮮な感動には乏しい。過去の旅をなぞっているような、そんな感覚がつきまとう。それでもケラ(ケラスという人もいるが、現地で聞くとケラだというから、ケラとしておく)はちょっと良かった。月の砂漠のような山に極上の乳製品。山奥の谷間に城まである。

それにしても、フランスはどうしたのか。僕にとって、偏狭な人々が突っ張りながら暮らしていて、理解不能なデザインで埋め尽くされている愛すべき国だったが、今や普通の国になってしまった。サルコジのロマ追放にもびっくりしたが、自動車に乗ってもファンのスイッチの所在がわからずに凍えそうになるようなことはないし、「転んでみやがれ」と言わんばかりだった歩く歩道の運転速度は、もはや成田空港並みの鈍臭さである(メーカーはシンドラーだった)。最大の拍子抜けは人々の性格で、これが世代が変わってきたせいか、パリでさえ妙に角が取れてしまっている。もともと地方はひとが良かったが、それでも、これはないだろう、と一人呟きたくなるくらいの変わりぶりに大いにがっかりした。

日本暮らしの毒の、解毒剤にはもうなりそうもない。


[写真撮影 : 2010/08 - フランス・エクラン山群 Valgaudemar] [Photo data : 08/2010 - Valgaudemar, les Ecrins, France]
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