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[這いずり日記] 忽那・津和地島 2014/秋

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仕事で久しぶりに瀬戸内に行った。今治や波方の町の状況を自分なりにアップデートした後、詰めた仕事のあい間を、例によってどこか行ったことのない場所に割り振ることにした。

とは言え諸般の事情により東京に帰る日も決まっているので、長居もできない。松山。今治。行ったことがない。うーん、と迷うことしばし、地図を見たらあっさりと結論が出た。忽那諸島。以前より地図で見て、或いは飛行機の窓から見て、不思議に思っていた島嶼群だ。島はたくさんあるが、大きい島は持て余すし、また宿のあるなしもあって、結局、目的地は津和地に落ち着いた。

今治から特急、北条からワンマンカー、三津浜からタクシーと乗り継いで高浜の港につくと、既に待合室には島の人々がいて、色が黒くてシワの深い爺さん連中が無表情のまま容赦なく他所者の僕に視線を飛ばしてくる。このアウェーの感覚は、イタリアとかギリシャの漁村の記憶に通ずるものがある(そしてだいたい、婆さんはやさしい)。

高速艇は避けて各島停船のフェリーに乗りこみ、いつも通り風のきつい最上階の端に立つ。ひょっとしてスナメリ、とか、せめてミサゴ、とかそれなりの期待はあったのだが、トビやウミネコが視界に入る位で、生き物には乏しい。そればかりか、海面にはゴミばかり目立つ。ただ、視線を上げれば、風光明媚な瀬戸内だ。やがて進んでいくと、どちらの方角にも島が重なり、どこが四国やら、本州やら、もう何も分からない。

津和地は僕の望み通り、小さな島だった。ご他聞に漏れず高齢化が進んでいて、道端には放棄されたタコツボ(全然捕れなくなったらしい)、斜面には錆びたモノラックの軌道が多いけれども、ただ蓋井島なんかに比べれば、海は穏やか、人口は400人もいるし、小学生も三人、周囲にも大小の有人島があるから、まだぎりぎりで踏みとどまっている感がある。

宿で昼寝をしていると、外から中国語が聞こえる。えー、こんなところに中国人の婆さんが?と思ったが、よく聞くと微妙に中国語ではない、しかし、全く意味がわからない。呆然とすることしばし、やっと「よーせんわー」という言葉が耳にひっかかる。愛媛というより広島に近いようだが、とにかく独特。思わず内緒で録音してしまったが、これが今回最大の収穫だったかも知れない。


鳥は種類は限られるが、それなりに。全島にあふれんばかりのヒヨドリ。それを追いかけるハイタカ。堤防にイソヒヨドリ。渡ってきたたくさんのジョウビタキ。視界に入らぬということがないトビ。あとは、ミサゴ、ノスリ、キジバトメジロ、カラ類、コゲラ、スズメ、モズ、セキレイ二種、ホオジロ、イソシギ、セグロカモメ、ウミネコ、ウミウ。ハシブトガラスハシボソガラス。それとおそらく林の中にシロハラかアカハラ。宿で借りた自転車を押して山を上がっていくと、トビやハイタカが近い。

でもこの島でいちばん繁栄しているのは、実はイノシシなのだ。罠にかかり銃殺刑に処された若い個体も見た。爺さん婆さんに話を聞くと、「昔はおらんかった」「ここ20年じゃ」「海を渡って来よった」「最初の一匹はイノブタじゃった」「ほうよ、鹿島で飼うとったのが逃げて来よったんじゃ」「今はもう千頭はおるじゃろう」「芋でもスイカでもきれいに食べよる」「こうなったらもう人間の負けじゃ」などという。僕が島にいた前の日も、大きなイノシシが一頭泳ぎ着いたと話題になっていた。「100キロはあったじゃろう。」

厳しい現実があるような、浮世離れしているような。何だかわからないけれど、島の奥の奥、瀬戸内の真ん中には、瀬戸内の真ん中ならではの世界がまだあるようで、ちょっと安心した。

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(写真の都合で、寒風吹きすさぶ過疎の島みたいに写っていますが、実際は柑橘類がいたるところ(山頂付近まで)に実った、あたたかい風光明媚な島です。)


[写真撮影 : 2014/10 - 愛媛県] [photo data : 10/2014 - Ehime]
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