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[這いずり日記] 台湾・台東利嘉林道〜知本 2009/初冬

また台湾の高雄で用事があったので居残らせてもらった。久しぶりに蘭嶼に行こうかとも思ったが、霧台の印象がどうにも強かったので、今回は脊梁山脈を大きく越えて霧台の反対側、台東・知本あたりの山に入ってみた。台東は何回か来たことがあって親しみも感じているのだが、前回はいつだっただろう?と指折り数えてみるとこれが23年前である。初めて台東駅に降り立った時、駅前はヤシが繁り、客待ちをしていたのは人力車と輪タクだった。それは36年前。僕もついにそんな昔話ができるようになるとは。実に恐ろしい。
今では輪タクこそ居ないが、それでもちょっと山の中に入れば、鷹が舞いキョンが吠えるえる原生林帯に突入する。冬とは言っても熱帯だから、カエルもヘビもヤマビルも元気だし、鳥も台湾独特な留鳥に加えて、もうこの辺でいいや、と居着いた感じのサシバ、ノゴマなどの冬鳥が混ざってなかなか飽きさせない。上がっていくと 1000mより上は地形の都合かいつも雲の中にあって、足を踏み込めば五里霧中である。台風の影響もあり道も崩れ始めて、そう簡単に入ってもらっては困るよ、というやんわりとした拒否がじわじわと伝わってくるから、その辺で引き返すのを日課とした。

雲の下に出て下を望めば、箱庭のような眺めのなかに、海が見え、鉄道が走り、畑があって、川が流れている。なんだか、子供の頃、社会科の教科書に出ていたような風景がそのまま眼前に拡がっている。あれはどこにでもありそうで、実はどこにもない夢のような風景だったが、こんなところにあったのか、という思いが湧いてくる。もちろんこれも錯覚に相違ないのだが、錯覚ではないと思い込みたくなる自分も感じる。ある種の恋愛感情みたいに。

なんだか甘いような、苦いような、23年ぶりの台東の旅は予定通りに一週間で終わった。


[写真撮影 : 2009/11 - 台湾・利嘉林道] [photo data : 11/2009 - Taitung Province, Taiwan]
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