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[這いずり日記] 印旛沼 2021/03

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千葉の方に外せない用事があり、出かけることになった。最近はすっかり篭りっきりであったから多少なりとも外の空気を吸いたいし、用事に臨むにあたりリモートでますます昂進した夜型の矯正する意味合いも含めて、若干早めに出かけ、その時間を印旛沼にあてた。

記憶力のよい、地理好きの聡明な(笑)子供であったから、日本の主だった湖沼の面積や特徴は漏れなく把握していたが、その中でお気に入りと言えば間違いなく印旛沼であった。まずインバヌマという土俗的な語感が怪しくて素晴らしいし、何より日本最大の沼である。いまはご他聞に漏れず、カクカクと直線基調の姿に成り果てているが、子供の頃の日本地図では、まだ人の胃のような、魚の浮袋のような、ぬめぬめとした流線型で描かれていた。

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科学的な定義はともかく、沼は、本来、水の多寡にともない呼吸するように縮み、膨れ、また溢れて、境界のないものだ。だから干潟と同じで、この換金思想の世の中では、沼は生きづらい。蕪栗沼のように、水の溢れるゾーンを想定してもらっている多少は幸福な沼もあるが、元来広大な湿地帯の一部だった印旛沼の辺は、江戸時代からあっちを埋められ、こっちを切られ、度重なる土木手術に沼の印象はもはや殆どない。現在の姿は、人工呼吸器をつけられた明るい湖といった風情だろうか。まわりはあちこちに土木現場とゴミ処理場が目立つ。

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そのインバヌマの岸をあるくのはほぼ20年ぶり。平日の昼間、何よりインバヌマだから、人がいるようなイメージはなかったが、自転車に乗る人、犬の散歩、カメラを持った人、いろんな人がマスクをして、なんかガヤガヤしているので驚いた。水際はゴミが多いし、鳥はヒヨドリだのホオジロだのばっかりだし、少なからず失望したけれど、それでも久しぶりの他流試合は楽しいのだった。

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早々に西印旛沼には見切りをつけて、北印旛沼に行くと、工事現場だらけとは言え、多少20年前の印象に似た姿があった。水面にはヨシガモがたーくさんプカプカ浮いていて、夕方にはチュウヒが出て、まだ夏鳥はほとんど来ていなかったけれど、かわりにオオジュリンやアオジがヨシ原から顔を出した。何よりも、20年前、まだインターネットが今のように巷の事物を縁起をカバーしていなかった頃に遭遇して腰が抜けるほどおどろいた、飛べないモモイロペリカン(元は人に飼われていたものらしい)が相変わらず北印旛沼の入江のボートの上に座って、ひとり波の音を聞いていたのには吃驚した。ペリカンて長生きするんだな。

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それにしても千葉はのぺーっと平らで、広い。やっぱりこういう、とっかかりのない地形だと、土地の感覚のようなものは生まれにくいのではないかとか考える。バイオリージョナリズムは都会にも適用可能だとか言うけれど、島や山、アメリカの西部、そういうところではなくて、メリハリのない千葉のような場所では苦戦するのではないかなぁ、いやこういう場所では平地と水の感覚が生まれるのかなとか、どこまでも平らな道をあるきながら考えた。

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[写真撮影 : 2021/03 - 千葉県] [photo data : 03/2021 - Chiba]
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