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ジョウビタキ - Daurian Redstart - Phoenicurus auroreus

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ジョウビタキは珍しい鳥ではないが、基本的に冬鳥で、特に西日本の里に多く、だいたいは秋冬のよわい夕陽を浴びて、しっぽをぴくぴく震わせているような印象だった。

それが、突如、本州の中部山地で繁殖を開始したのが10年ちょっと前。その傾向が少しずつ広がって、今では珍しいことではなくなってきているようだ。うちの小屋でも、以前は「川筋に時々見られる数のやや少ない冬鳥」であったが、三年前から♀が一羽、冬、小屋の周りに常駐するようになり、昨年春にはとうとう繁殖活動が始まった。

最初の繁殖を報告した論文、そのフォローアップの論文 (1, 2)を読むと、最初のカップルは別荘地の雨どいで二年連続営巣した、とあり、また、2013年までに確認されたカップルはいずれも「リゾート地ないし別荘地の定住者が居る建物の人工物の中」で営巣した。また巣の高さは地面から 2m前後が多かったようだ。海外の資料を見ると、通常の営巣は標高2,500m 以上の山地で行うようで、高さは 1.5m前後とある。

うちのカップル(厳密に言うと昨年と今年で入れ替わっている可能性があるが、今年、最初からやたら馴れ馴れしいので、同じ連中のような気がする)、通称ジョウ君とその奥さんは、昨年、小屋の裏にある空き家の軒下で一回営巣に失敗、その後、その先の方にある別荘の雨どいで無事孵化を終えた。

さて今年はどうするのかな、と思って見ていたが、うちのプレハブの車庫の中の、巻き取りシャッターの裏側にご執心だ。地面から、高さ2m。確かに、あそこなら野ネコやカッコウには狙われにくいかと思うが、ジョウ君の奥さんが巣材を加えて出入りしだしたのを見つけ、悪いが立ち退いてもらった。出入りに気を遣うし、車を糞だらけにされても困るし。

まぁこれでまた裏の空き家にでも行くだろうと思っていたのが、さにあらず。理事が追払ってもがんがんガレージの壁を叩いても、隙あらばまたやって来て、ゲリラ的に営巣しようとする。のみならず。僕にせよ理事にせよ、外に出ると、二羽が打ち揃って陳情にやって来る。目の前、ほんの2m先の枝先に止まって、尻尾をぴりぴり震わせながら、つぶらな眼でじっとこちらを見つめるのだ。見ると、奥さんの口には巣材が山盛り。

ここ10日で、巣を壊すこと二度。それでも陳情は止まず。また隙あらば車庫に突入してくるのも変わらず。車庫を明け渡せ、というジョウ君夫婦の断固たる決意を目の前に、人間の夫婦はちょっとたじろいだ。ねえジョウ君たちどうするのよ? とうとう理事にも催促され、決断を下すことにした。

外に出て、おーいジョウ君!と呼ぶと、車庫の前で待っていた。2m先、こちらを向いてまっすぐ対峙したのを見計らい、車庫を指さして、ちょっと厳粛な顔と声を装い、大岡越前の気分で沙汰を申し渡す。その方らの固い決意、しかと判った。よって車を退去させるゆえ、ガレージはその方らの自由に任す。とっとと卵を産み育て、とっとと立ち去るがよい。

ジョウ君はヤブデマリの枝に止まって、ぴり、ぴり、と尻尾を震わせながら神妙に聞いていたが、お代官様が「わかったか?」と聞いた時、いえ?と言わんばかりに大きく首を右に傾げたのが絶妙のタイミングで、思わず大笑いしてしまった。それを見たジョウ君はこんどは左に大きく首を傾ける。判っているのやら、判っていないのやら(笑)

以来三日。車庫は完全没交渉としたので現状は不明だが、ぴー、ぴー、という呼び声が時々聞こえるし、飛び込むジョウ君の姿も何回か見たから、たぶん無事に営巣に入っているものと思う。資料によると、抱卵開始から孵化まで二週間半。巣での子育てはそこから二週間。車庫にあるタイヤを出しておかなかったのが失敗で、あとひと月、スタッドレスで走らないといけない。

それにしても、春の眩しい光のなかで見るジョウ君は、腹のオレンジ色も明るく鮮やかで、冬の日だまりの印象とはずいぶん異なる。ありふれた鳥だからそう思ったことはなかったが、これはこれで、また器量の良い
ヒタキなのだなあ、と改めて感じ入る。この上に美声の持ち主だったら言うことはないのだが、何やらひりひりと口ごもるように精妙に歌うものの、他のヒタキのようには高らかには歌わない。ただ、すぐ近くの枝にとまって、僕を見ながら歌ってくれるのだから、それはそれで、決して悪くはない。

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↓巣材を咥えた奥さん
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↓沙汰を聞くジョウ君
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4/27 追記。今日は、たまたま通りかかったリスを果敢に攻撃するジョウ君の姿が観察できた。逃げ惑うリスに背後から襲いかかるとは。
だがジョウ君、リスは菜食だ。君たちの本当の敵はたぶん
ノネコとテンだ。あとタヌキも危険だな。




5/12 追記。お洒落なジョウ君のカラーコーディネイトについて新たな知見が得られたので、写真を一枚追加。

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5/18 追記。5/12 あたりから、奥さんの姿も頻繁に見られるようになり、二羽で虫を探しているので、いよいよ抱卵も終わり、育児開始かと思っていたのだが、5/15 の午後、二羽揃って挨拶に出てきた様子がどうもおかしく、不思議に思っていたところ、そこで二羽ともぷっつりと消息を絶ってしまった。何らかの原因で育児に失敗したような気がするが、まだ巣のところを確かめていないのでわからない。去年は雛の巣立ちの日からやはりぷっつりと消息を絶ち、ひと月ほど経ってからふらっとジョウ君だけ戻ってきたが、今年はどうなるのだろうか。

下の写真二枚は、5/14 に、しきりに地面で虫を探すジョウ君の奥さん、通称タキ子さん。

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5/20 追記。5/18、晴れの日、二羽はまた現れた。そして同じように車庫に出入りしている。でも何だかおかしい。二羽とも、かつてないほど余裕がなく、焦っている感じがする。今のところ、(1) 育児佳境説。雨で二日間見逃したが、順調にひなが育っており、多くのエサを必要としているので、親は忙しい。(2) アクシデント説。何らかの原因で育児に失敗して、あるいはやり直しているのではないか。で、時間がないので焦っている。の二説がある。真相は如何に。なお、今週からカッコウが近くに到着したが、もちろん車庫に近づいている様子はない。




5/25 追記。その後また気配がなくなり、5/23の夕刻に、♀のタキ子さんが、車庫の裏の柳の枝でぽつーん、と止まっていることが観察されたので、今季の車庫での営巣は終了したものと判断し、実地検分してみたところ、最初の巣は卵が四個残ったまま放棄しており、同じく車庫の中、その後方の別な場所であらたな巣が作られていて、タキ子さんがひとりで抱卵していた。要するに孵化しないなど、何らかのアクシデントでやり直したと言うことだな。前項で言うと (2)。そして、5/20ごろ、二羽で懸命に巣作りをやり直したと考えられる。しかしまだ抱卵してるのか。ということで、タイヤ交換はまだ先になりそうだ。




6/21 追記。その後、いつものように、ジョウ君が車庫の周りで防衛活動にいそしみつつ、時々餌をなかに運ぶ、という光景が見られたが、6/10ごろから、ジョウ君・タキ子さんがそれぞれに餌を運びだした。なるほど、これは生まれたな、と想像していたが、6/21 朝、やっと巣立ちを確認。一羽の幼鳥を、親二羽がつきっきりで世話をしている。カラスなどのアタックもあるため、笹やぶで隠密活動をしていると見られる。しかし、最初の営巣活動開始から二ヶ月余、体力も気力も使ったと思うがほんとにご苦労さんであった。うまく育つとよいね。こちらもやれやれ、やっとタイヤが替えられそうだ。
しかし、ジョウビタキ夫婦のコミュニケーションは、一体どうやって行うのか、実に不思議だ。

[写真撮影 : 2021/04 - 長野県 - 14cm - 個人的博物館本館のジョウビタキのページ]
[photo data : 04/2021 - Nagano, Japan - 14cm+- - visit the main museum (
Daurian Redstart)]





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